絹は最も人間を魅了してきた繊維です。かつてはその重さが金に匹敵すると言われたほど貴重とされた時代もありました。今なお、その魅力は人々を虜にしています。

絹はカイコガと呼ばれるガの、サナギを包んでいる繭をほぐして作ります。カイコガにはカサンガ科とヤママユ科があり、絹に使われるのはカサンガ科のカサン(家蚕)、ヤママユガ科のサクサン(柞蚕)、テンサン(天蚕)です。
家蚕は家屋の中で育てられ、桑の葉のみを食します。桑の葉の成分の80%は水分ですが、残りの20%には蛋白質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルなどバランスがよく、そのうち蛋白質が最もたくさん含まれています。これが絹の蛋白質に合成されるのです。この環境が細くきれいに整った糸を作るため高級品に使われます。また、柞蚕、天蚕は野蚕とも呼び、野生のカイコで、クヌギ、カシ、ナラ、マテバシイなどを餌にしています。野蚕は家蚕より2〜4倍太く、断面も扁平なため、それを生かした独特の風合いのものとなります。

 

カイコガ

繭糸の構造はフィブロインという蛋白質(その分子に力を加えて引っ張ると、引き伸ばされて収束し、繊維化する)の繊維が2本、そしてセリシンという蛋白質(水溶性)がそれらを被覆する形になっています。また、1本のフィブロインは100本内外のフィブリル(小繊維)から出来ています。一つの繭は1500メートルくらいの1本の長繊維で作られています。フィブロインの三角断面とその内部のフィブリルで光りプリズム現象が起こり、乱反射をして美しい光沢ができるのです。絹の特徴はこしがあって、ドレープ性に富む、吸湿性がよい、容易に染められる、肌触りがよく、保温性がよい、光沢が美しいなどです。反面、紫外線や空気中の酸素で黄変します。虫害も受けやすく、熱にも弱く、酸やアルカリにも弱いという短所があります。また、水ジミになりやすいのも欠点です。
絹鳴りという独特の現象は繊維同士が付着した状態から、力が加わってすべる状態に移ることを繰り返すことによって起こりますが、すべての絹に起こる現象ではありません。

 

 

絹の断面図
2本のフィブロインをセリシンが被っている

フィブロイン

 

家蚕糸、野蚕糸それぞれに長繊維と短繊維があります。
繭は湯の中で1本の繊維を引き出し、数本引き揃えて接着していくと生糸ができます。これは水溶性のセリシンの性質を利用したもので、長繊維は生糸から作られます。
生糸を作る工程でできた屑糸や屑繭から短繊維にして紡績した糸を作り、これを絹紡糸と呼んでいます。

TOPへ